言語聴覚士が語る言葉と脳の不思議 [お勧め本]
私も脳卒中の急性期には言語聴覚士(ST)による言語指導をうけていましたが、言語障害についてはほとんど何も知りません。今回以前ご紹介した関啓子さん(言語聴覚士で脳卒中発病)の著書「失語症を解く」によって学んでみたいと思います。言語障害、特に失語症を理解するには非常に良い教科書だと思います。早速内容をピックアップします。
言語は人間だけに与えられた高度な精神活動ですからその中枢もはっきりしており左半球の前方と後方にあることが分かっています。発見した人の名をとって前方の言語中枢を、ブローカー言語野>、後方の言語中枢を<ウェルニッケ言語野>と呼んでいますウェルニッケ言語の後方には伝統的に読み書きの中枢と言われてきた<角回>があります 。
■「ウエルニッケ失語」と「ブローカ失語」
この損傷の部位によりの2つの種類の失語症があるそうです。
ウェルニッケ失語の最大の特徴は聞いた内容を理解しにくい、ということです 。文章のかたちで言われると例え単純な文でも理解できないことが多いようです。例えば「机を指指して下さい」と言われてもきょとんとしていることがよくあります。話すことはできますが宇宙語で全く意味不明の言葉です。
一方ブローカ失語ですが、まず特徴的なのが話し方です。一つの単語を話すにも大変な苦労が必要なのです。とつとつと話すとか口が重いとかという表現ではとても足りないのです。話し出すにも時間がかかり、途切れ途切れにやっとの思いで言っている感じです。おまけに日本語らしくないおかしな調子の話し方なのです。
「えーと・・・え・・・あさ・・・あさ・・・あの」(えーと、朝)という感じです。単語が思い出せない、言葉を言い間違える症状です。また単語を区切ったような話し方になります。電報に似ていることから「電文体」と呼ばれるそうです。
■全失語患者への接し方で注意する点。
全失語患者(広い範囲で言語脳に損傷が見られる人)への接し方で注意する点次の3点です。
1.話すとき文字で書いてもらおうとしない。
(失語症では話し言葉と同様に読み書きも困難となる)
2.話が分からないからといって大きな声で話しかけない。
(失語症の理解障害は聴覚障害とは異なる)
3.子供扱いしない
(失語症では一般に言語以外の側面は保たれている)
■言語と思考は独立した存在
言語と思考は、密接に関係してはいるものの、両者は独立した存在であり、必ずしも言語がなければ思考ができないわけではないのです。
それでは失語症の患者さんが思考をはじめとする高度な知的作業ができることがどうしたら分かるのでしょうか
一つは患者さんの日常的な行動を観察することによってわかります。言語的なコミュニケーションは不完全でも人の気持ちを理解したり、状況を判断して適切な行動をとることに支障はないことは注意深く見守っているだけでよくわかります。
また指さし、身振り、表情など非言語的なコミュニケーション手段を有効に用いることができます。
一方、記憶や思考判断などの複数の知的機能の障害である痴呆ではこれらのことは困難です。
全失語の方が言語機能がほとんど廃絶状態であるにも関わらず周囲の人達とうまくやっていけたのは知的に保たれていたからでした 。
■コミュニケーションを支えるものは話し手と聞き手の間の気持ち
二人の間の「伝えたい」「理解したい」という気持ちが強ければ、話し方などのような言語の形式面の問題は二次的な問題になるのではないでしょうか 。
もし聞き手が話し手の話の内容に関心を持って会話すれば、会話すること自体が楽しくなり話しにくさへのこだわりは少なくなるはずです。
■非言語的コミュニケーション
非言語的コミュニケーション手段はミツバチのダンスや鳴き声などのように動物にも見られます。
人間が使う非言語的コミュニケーション手段としては、表情、身体的接触、ジェスチャー、サイン、シンボル、指さし、発声など様々なものがあります。
人間は言語障害があってもなくてもこの手段を日常的に使っています。「目は口ほどにものを言う」というよう表現があるほど表情が豊かに人の気持ちを伝えます。抱きしめるだけで言葉に言い尽くせないほどの愛情や共感を伝えることもできます。
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