最後の教え(1)




ようやく師匠の墓参りを済ませてきました。相変わらず出来の悪い弟子で、今年は命日からもう3ヶ月も過ぎています。




師匠に教えられたことはたくさんあります。実務的なことから生き方まで本当に数多くのことを教わました。それを私が十分活かしきれたかと問われれば、はなはだ疑わしいのですが。




私は、非常に出来が悪い人間で、20台半ばに近いのに就職もせずフラフラして、生計はアルバイトで立てていました。そんな私を拾ってくれたのが、その当時ある団体の事務局長をしていた師匠です。「仕事は別にしなくても良いから私の隣の机に座って、私と来客の話をしっかり聞くように」とのことでした。師匠も普通の事務机に座っていて、その前にはパイプ椅子が無造作に置かれてありました。


もっとも給与は同期入社の年下の女の子の3分の2程度です。まあ他の人が見れば運転手かボディ―ガードみたいなものだったのでしょう。




しかし、師匠を訪ねてくる人達には本当に驚かされました。例えば現職の国会議員が時々訪ねてくる。東大出て大阪通産局長を経て衆議院選挙に当選した男が、パイプ椅子に座って師匠の話をじーと聞いているのです。師匠はかって中小企業の社長だったとはいえ尋常高等小学校卒です。宗教の教祖でもなければ、論語等の教えを説く人でもありません。もちろん裏社会の人間でもありません。




他にも、来月店を 出しますという若い男から、地方の商工会議所の会頭まで実に様々な人が訪ねてきました。師匠は誰に対しても同じ態度で淡々とアドバイスをする。そしてそれらの人が帰った後で、その話の簡単な解説や人物評を私に語ってくれるのです。何のために?





それじゃ~続きはまた。