脳血管性うつ病について(3)


 


前回、我々の脳卒中後うつ病は心の問題だけでなく、やはり脳損傷の問題もあるというお話でしたが、今回は、血管性うつ病の生物学的発生要因についての詳しい話です。ここは多少専門用語が出てきますが、記憶ににとどめておく程度でいいと思います。


 


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現在では生物学的要因を重視する考え方が主流です生物学的要因を重視する根拠としてはロビンソンらが脳卒中後うつ病の患者さんの脳脊髄液の中のセロトニン代謝産物である5-ハイドロキシインドール酢酸という物質が有意に低下しているという報告をしています


 


一般的なうつ病と同様脳卒中後うつ病でも脳内の神経伝達物質であるセロトニンの低下が起こっている可能性が推測されます


 


 



生物学的発症要因として2つの仮説があります一つはロビンソンたちによる局所病変仮設ですこれは脳血管障害によって大脳の前頭葉と基底核を結ぶ神経回路の障害によってうつ病が引き起こされるとするものです




 


 大脳の前頭葉と脳の深い部分にある基底核の神経回路の障害です。 特にロビンソンらは脳卒中発症後急性期にうつ病になる患者さんは左の前頭葉に病巣がある人が多く脳卒中発症後退院して地域で生活している慢性期うつ病になる人は右の後頭葉に病巣がある人が多いと報告しています


 


もう一つは特定の部位を原因とするのではなく 情動をつかさどる神経ネットワークに小さな病変が蓄積し病変のが閾値(※1を超え集積がうつ病を引き起こすとする閾値仮設です。


 


1閾値・・感覚や反応や興奮を起こさせるのに必要な、最小の強度や刺激などの(物理)量


 


 


情動をつかさどる神経ネットワークとしては大脳皮質線条体淡蒼球視床皮質回路と呼ぶ脳の情動回路と言われる領域のニューロンの一部が直接的間接的に障害されうつ病を発症すると考えられています その他にもいくつかの神経回路が想定されており複数の神経回路の障害とされています


 


ただ少なくとも脳卒中後うつ病において生物学的要因のみではなく脳血管障害に伴う麻痺失語症などの後遺症の問題 失職や経済的問題生活環境の変化将来への不安など様々な心理社会的要因や病前性格などが多因子が複合的に関与していると考えるべきでしょう。


 


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 だんだん話がややこしくなってきましたが、要するに脳卒中後うつは、脳の損傷という生物学的要因、心理的要因、社会的要因、性格要因など多くの要因が複合的に関与していると言う事なのでしょう。


 


ですから逆に何かの要因に特定してしまうのは、我々患者を見誤る危険があると言う事なのでしょう。何か常識的な結論に落ち着いたとも言えると思います。


 


次回は、脳血管性のうつ病の症状についてです。


 


 


それじゃ~また。