山田 規畝子さんは整形外科医ですが、「もやもや病」という脳血管の原因不明の難病により三度の脳出血を経験されています。その著書

「壊れかけた記憶、持続する自我―「やっかいな友人」としての高次脳機能障害」


を今回ご紹介します。


二度目の脳出血の後は、この高次脳機能障害を理解しようとしない夫の元から子供を連れて飛び出して、新しい生活を始めるという壮絶な経験もされています。



私の印象に残ったところを抽出します。山田さんは、医師らしく分析が実に的確で専門知識も豊富です。脳卒中という病気と、それを取り巻く状況を再確認する意味でも詳しくお伝えしたいと思います。2回に分けてお伝えします。



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■低酸素脳症

脳に損傷を受けた患者は外傷でも脳卒中でも同様だが低酸素脳症と言って脳に酸素を上手に取り組んだりするのができなくなることが多く、いつも脳がうすらぼんやりした状態にある。その結果起こることは、簡単に言えば頭の回転が悪くなるということだが、それは知能が低下してしまう知的障害とはまた異なる 。



■平衡機能の異常

障害の中でも特に気づかれにくい障害に平衡機能の異常がある。平衡感覚を司る中枢は三半規管で、脳の損傷により異常が出る。



■視床痛

傷のある右脳の支配する体の左側には不思議な痛みがある。痛みのある部分の器官・組織には外見上何の異常もない。ただ比較的強い圧力をかけると左半身はとても痛い。家族などの介護者から見ると「触っただけで痛がる」と見えるらしい。こういった現象は大脳の中でも視床という部分を損傷した患者に特異的に見られる現象なので「視床痛」という名前がついている。
 


■認知運動療法

思うように動かない「運動麻痺」と、思うように感じない「知覚麻痺」の二つが大まかな麻痺の症状であるが、自宅で一人でやれる訓練はたくさんある。いずれの麻痺にしても大切なのはどのように動かしたいのか、どんな感じの感覚を感じたいのかはっきりしたイメージを持つことである。体のある部分を動かしたい風呂に入って暖かいという感覚に浸ってリラックスしたいというレベルで良いので最初にはっきりしたイメージを持つことが訓練として有効である。


感覚器が刺激を受け取る場所と、刺激を感じ取る脳との間の信号の経路が断たれた状態にあるのだから、最終的に信号を受け取る脳の方から「刺激よこい、こい」と要求しているうちに、寸断された神経は感覚器の刺激を受け取る場所にまで再び連絡網を伸ばして行くことができるだろうという考え方で、多くの学者がその考えに賛同して新しいリハビリテーションの形として普及しつつある。



■高次脳機能障害者への接し方

高次脳機能障害者の精神的安定のために一番必要なのは「今障害を背負っているあなたは何も悪くないので堂々としていましょう」という気持ちを基盤に持って接するということだ。  そういう接し方をして、何か勘違いしたような失敗をしても、それは患者本人でなく病気がさせていることだといつも考えて欲しいと、介護者の方にはお願いしたい。当自者に対する最大の理解とはそういうことではないかと思う。



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私(メガネ)の話ですが、退院して、杖をついて何とか歩ける。言葉も普通にしゃべれる。「後は頑張って体を元の様に回復するだけや」などの励ましを周囲から受けていたのですが、脳のこのぼんやり感とともに、頭の回転の鈍さに茫然としていました。やはりどうも元の頭じゃない。


この不安は3~4年続きました。今病後7年目経ってようやく、少しづつ回復して元に近づきつつあると感じられてます。回復は止まってはいないと感じるのです。





壊れかけた記憶、持続する自我―「やっかいな友人」としての高次脳機能障害



  • 作者: 山田 規畝子

  • 出版社/メーカー: 中央法規出版

  • 発売日: 2011/08

  • メディア: 単行本






  それじゃ~また