障害を生きた作家 杉本章子 [お勧め本]
杉本章子さんは、障害を生きた作家です。1歳3ヵ月で小児麻痺に罹り、それから両足が不自由になり松葉杖で歩いておられたそうです。
私が初めて杉本さんを知ったのは、雑誌の対談です。山本周五郎の好きな作品を3点あげられたのですが、その内の2つが私と全く一緒でした。山本周五郎と言えば「樅木は残った」など長編作品が有名ですが、目立たない短編(私も好きな)を上げられ驚きました。人間の無意識の残酷さや邪悪さが描かれた作品です。若い時に何か悲惨な体験でもされたのかなあ~と思っていました。ちなみに「なんの花か薫る」と「榎物語」です。
その後、別の雑誌で杉本さんの写真を見ると、理知的な美人で驚きました。こんな方がなぜあのような短編が好きなのか理由が分かりませんでした(その時は障害のことは全く知りませんでした)
それから彼女の作品(時代小説)を読み始めたのですが、軽い失望感を覚えました。よく言えば「上品な」作品ですが、悪く言えば「少女の妄想」に近い。この人あまり世間に出たことないな、というのが私の正直な感想でした。
その杉本さんが2015年暮れに62歳の若さで亡くなったのを新聞で知りました。その時初めて障害のことも知りました。乳がんだったと言う事なのですが、杉本さんの場合、乳がんの手術すれば、松葉杖がつけなくなる可能性があり、治療をあきらめられたそうなのです。治療より日常の生活(書くこと)を優先されたのです。
それで慌てて遺作「起き姫 口入れ屋のおんな」を読んでみました。この作品をお書きになっている途中で、がん宣告を受けられたそうです。
驚きました、この作品には、かって感じた「甘さ」はみじんも感じられませんでした。こんな一文があります。
■悪い癖ですよお嬢ちゃま。すぐむきになって窮屈に考えすぎる。あたしが申しあげたかったのは、女所帯には用心も知恵もいっるてこと。だからといって殻に閉じこもってばかりいちゃ、世渡りなんかできゃしません。
■面倒から逃げるといっそう面倒になる。最初にはっきり言ってやるべきでした。
この作品が出発点ならとも思いましたが、一方、この作品が杉本作品の最高の到達点だという気もします。いずれにしても素晴らしい作品です。杉本さんは障害をお持ちでしたが、一方で、周りの方の深い愛情に支えられていたはずです。だから最後でこんな作品が書けたのだと思います。全ての集大成としての作品だったのです。障害を乗り越えた62年の見事な人生を完成させたのです。
私も片麻痺障害者となったことで、人生の完成形に少し近づいた気が、ふっとすることがあります。自己中心的で好き勝手に生きた私には、こんな不自由な形も必要だったのでしょう。
それじゃ~また。
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